こころには森がある
パシュラル先生のはるかな旅
Maitre Pacheral
はらだ たけひで
冨山房インターナショナル
わたしたちの
こころには森がある
光
みちて
花
ほころび
あかるくなった森を
パシュラル先生はゆく
大きな木のしたで
まどろみ
シジミチョウになる
夢をみる
だれのものでもない
たまごをあたためる夢
青空をどこまでも
シロカモメとゆく夢
むかしよんだ本をよみ
むかしきいた音楽をきき
銀の羽をひろげる
森にないものはない
こわれたり
なくしたり
すぎていったものは
かならずかえってくる
木々に実となって
水晶になった思いを
そっととりだしてみる
あかりに手をかざし
そっと言葉にしてみる
涙は
あまい雨
ほほえみは
日だまり
祈りは
夕べの星になると
わたしたちは
石
宇宙のちいさなもの
わたしたちは 星
宇宙のかがやくもの
羊かいのバランドラン
ふしあわせなイヤサントと
銀河をあおいでみよう
シリウス
プロキオン
ペテルギウス
オリオンの三つ星に
アルデバラン
わたしたちは
はてしない空からうまれた
朝の雨があがったら
光の王国を訪ねてみよう
カタツムリ
いちじく
ツマグロオオヨコバイ
みつばち
風きり羽
黄金の魚に
シロツメグサ
わたしたちは
ひとつの大地からうまれた
夜はしずかにあけ
いのちはめざめ
うまれかわり
羽をひろげ
とびたつ
たかく
たかく
空へ
木の葉がそよぎ
どこか
とおくから
歌がきこえてくる
すきとおった声で
かすかに
雪がふる
鈴の音を
リュックにしまい
パシュラル先生はゆく
りんごが
たわわにみのる白い道を
やがて
森をぬけて
山のいただきをこえ
砂漠の星の はるかむこう
歌がうまれる 彼方のほうへ
この絵本の主人公、 パシュラル先生は、 哲学者ガストン・パシュラールをヒントに生まれました。 このひげの先生は、 ふだん心のなかのどこか、 ほし草のように気持ちのよいところで暮らしています。 そしてうっかり忘れそうになると、 ひょっこりとあらわれて、 よい話し相手になってくれたり、 やさしい夢の世界へといざなってくれます。 そんなやわらかな、 白い雲のような、 私のたいせつな人です。
【著者紹介】
はらだ たけひで
1954年生まれ。
1989年『パシュラル先生』で産経児童出版文化賞入賞。
1992年『フランチェスコ』でユニセフ=ユズラ・ジャック・キーツ国際絵本画家最優秀賞受賞。
おもな作品に、
パシュラル先生のシリーズ、
『マルメローこの星のどこか森のはずれで』、
『大きな木の家−わたしのニコ・ピロスマニ』などがある。
挿画は『ブギーへの手紙』『森のお店やさん』『森のおくの小さな物語』『十歳のきみへ一九十五歳のわたしからなど多数。
2011年評伝『放浪の画家ニコ・ピロスマニ−永遠への憧憬、そして帰還』を発表。
1975年より岩波ホールに勤務。
3ページの鹿のシルエットはニコ・ピロスマニの「小鹿のいる風景」、 19ページの子供はジョルジュ・ド・ラ・トゥールの「大工の聖ヨセフ」から。 24ページの人物の名前はアンリ・ボスコの小説『マリクロワ』『ズボンをはいたロバ』、 37ページの楽譜はクロード・ドビュッシーのピアノ曲「夢」から。 いずれもオマージュをこめて引用しました。 また本書の絵には「The CD Club」のために描きおろした絵に加筆したものも含まれています。
【原本奥付】
こころには森がある パシュラル先生のはるかな旅
2012年8月17日
第1刷発行
絵と文
はらだ たけひで
発行者
坂本喜杏
発行所
株式会社 冨山房インターナショナル
〒101-0051
東京都千代田区神田神保町1-3
TEL.03-3291-2578 FAX.03-3219-4866
http://www.fuzambo-intl.com
印刷所
東京平版株式会社
製本所
加藤製本株式会社
©HARADA Takehide
2012 Prlnted in Japan
ISBN978_4_905194_43_9
(落丁・乱丁本はお取り替えいたします)
【デイジー図書奥付】
[製作] 日本ライトハウス情報文化センター
[製作協力] ICTサポート福岡 草場勝也・井上勝代
[朗読] 朗読座おおむた 深町美雪
[製作完了] 2016年1月